廃墟の夏/塔野夏子
 
此処は廃墟
もとは何であったのか
すでに忘れられた廃墟
散らばる残骸
もとは何であったのか
すでにわからない残骸

けれど此処にも
美しく夏は満ち
光と風とを遊ばせ
やがてその中に
在りし日の幻影が
ゆっくりと浮かびあがる

その幻影の中でこそ
夏は限りなく
激しい日射し 夕立 虹 夕映え
甘くうるむ星たちのあふれる夜空
そしてやがておとずれる朝の果てに
たなびく淡く青い祝福――

の 幻視が醒めてなお
廃墟を満たす夏は美しく
自らがやがて去ることを けれどまた
めぐり来ることをあざやかに告げながら
光と風とを遊ばせている


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