暗い風/塔野夏子
 
暗い風が吹いた
濃くあかるい夏空の下を
暗い風が吹いた

暗い風が吹いてもなお
夏空は濃くあかるく
白くかがやく雲を湧き立たせた
蝉たちは鳴き 鳴きやめ また鳴き
鬼百合 向日葵 百日紅
夏花たちはあざやかに咲いていた

この濃いあかるさが極まるほどに
けれど暗い風も吹きつづけた
この濃くあかるい風景は
幾重もの
透明な暗さで満ちているのだ

だからこそ
この風景の濃いあかるさは
時に壊れんばかりにあざやかであやうく
残酷なまでに彫り深く極まり

暗い風が吹いた
濃くあかるい夏空の下で
くりかえし 暗い風が吹いた


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