難破した船の来歴/岡部淳太郎
界は波によって洗われ、波によ
って腐食する。船の残骸の堆積の隙間から、
一匹の猫がぬけ出して、砂浜を歩き、陸地の
奥へと入っていった。
それから人びとは浜辺
からゆっくりとばらばらに立ち去っていった。
船の残骸を汀に残して、それぞれの残りの生
の現場へと帰っていった。いのちとは、こん
なにも迷いやすく、こんなにも崩れやすいも
のであったか。その日浜辺に集まった人びと
は、その夜、それぞれの寝床でひとり残らず
例外なく、船と海の底のまぼろしの夢を見た。
いのちとは、壮大な病の成せる業であること
を、人びとは知った。
(二〇〇五年二月二十二日〜二十八日)
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