散文的な夏/岡部淳太郎
の人びとはすべておまえを追いぬき、風のない暑熱の中で、ただ灼かれるしか術がない。流されてゆく橋の速度に倣って、洪水のような陽が照りつけている。強すぎる者は、いつの日か、自らの強さの前にかしずくだろう。おまえは炎天の、さまようべき性質。すべてのものが立ちつくしている。
追われてゆくのは夏、または人。これらの気候の方位の中で立つだけの、人びと。すべて文字のような顔をした人びと。おまえは陽によって散らされる。散らばってゆけ。追われてゆけ。おまえのばらばらの欠片を、この熱せられた道の上に撒いてゆけ。誰も歌わない。物語なら、なおさらだ。おまえはもうひとつの、暮れてゆく夏の日。追われてゆけ。散らばってゆけ。すべての夏は、いまここに、立ったままで忘れられている。
*
夏はすべてのものが汚れているから
散文的に あくまでも散文的に
手を洗わなければならない
追われてゆけ
追いぬいてゆけ
おまえの汚れはまだ
おまえの皮膚にこびりついている
追われてゆく
夏を 静かに死なせよ
空の句点の中心に
夏を そっと投げこめ
(二〇〇五年七月)
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