晩夏の蛹/岡部淳太郎
 
ころで、
おまえはただの虫、婦女子どもに
忌み嫌われる、この国の風土のよ
うに蒸し暑い虫に過ぎない。お母
さん、あなたも虫でしたから、僕
も虫になる以外にないのでしょう。
だが、夏は終り。はるか南の暗い
砂浜では、むすうのさなぎが波に
向かって整列している。さりげな
い、名もなき、擬態。明日の曇天
を予感させる、さなぎのなぎさ。
これほど夏に遅れたものたちに、
後を託して、せつなくも虫は人を
刺す。さなぎよ、私の老いの前で
生まれるが良い。夏の終り、まだ
空が、秋の顔色で染まり出す前に。



(二〇〇五年九月)
   グループ"散文詩"
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