前田見知子さんという画家/大町綾音
るわね……」
多分、個展の一日を終えて自宅に帰った後、旦那さんや娘さんたちと食べてもらったのだろう。……味の感想は、聞かなかったけれど。
そんな彼女から一冊の本をもらったことがある。
堀口すみれ子著「父の形見草」──翻訳作家である堀口大學との思い出を綴った、その娘氏の著作である。
「この本を読んでね、わたしは本当にいいなって、思ったの」
と、何度も読まれたと思われるその本は、十年か十五年ほどの年季が入ったもののように思えた。よほど大切にしていたものに違いないのに……
それまで「必ず詩人になる」と言っていたわたしは、「これからはもう女として生きます……」という手紙を彼女に送
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