或る夏の日/虹村 凌
 
何故、俺は諦めなかったんだろう。
本命じゃないなら、無理する事は無かったのに。


「チクショウ!話くらい聞いてくれたっていいじゃねぇか!」
俺はキレた。話を聞いてすら貰えない。
チクショウ。チクショウ。チクショウ!チクショウ!!
シケモクをくわえて座り込む。不味い煙草だった事は覚えてる。

その時である。信号の向こう側で、誰かが手を振っている。
俺は、ゆるゆると立ち上がった。
青信号を渡った。知らないお兄さんが、手を振っている。


「…これ、持っていきなよ。」
お兄さんは、俺に1万円を寄越した。
「もう、見てらんないよ。何か理由があるんだろ?」
俺は、何も言え
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