或る夏の日/虹村 凌
言えなかった。何て言ったらいいのかわからなかった。
「…足らないの?じゃあ、ほら。もう一万。これで足りるだろ?」
「あっ…あっ…あっ…あっ…」
俺は土下座した。もう何も言えなかった。訳がわかんなかった。
だけど、知らないお兄さんが2万円くれたのは確かだった。
名前を聞く事すら忘れていた。
「や、やめてよそんな事。そんなつもりじゃないから!」
「あっ…いや…あっ…」
「返さなくてもいいよ。」
「えっ…あっ…」
「じゃあ気をつけろよ。雨降ってるから、風邪ひくなよ?傘くらい買えよ。」
こんな会話だったと思う。とにかく、俺は2万円を手に入れた。
早朝の電車で向かえば、約束の
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