或る夏の日/虹村 凌
 
一番走った。本気で走った。
でも間に合わなかった。バスは料金所を悠然と通過していった。
流石に高速を走ったら、俺は逮捕される。
これじゃどうにもならん。むしろ実家から死の迎えが来る。

…じゃあ、ヒッチハイクしかねぇよなぁ。
煙草を吸いながら考える。金は無い。バスも無い、電車も無い。
移動手段が無いんなら、ヒッチしかあるまい。
俺はコンビニで至急、マジックペンを買った。
持っていたスケッチブックに、でかでかと書く。

「岐阜マデ」

道端で其れを掲げ、ずっと立ちつくす。
雨に打たれた。鞄も、上着も濡れた。
傘を差す事を諦めた。
タクシーを50台以上止めた。
タクシ
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