或る夏の日/虹村 凌
束の時間に間に合う。
俺は、東京駅に向かって、ゆっくりと歩き出した。
どんなに車に無視されても、まだ、いい人がいたのだ…と思った。
自分の事は、全く棚に上げて。
俺は、Aに電話した。間に合う、Yに会えるって。
嬉しくって、ずっと電話してた。
俺は、Aが好きだった。
でも、Aも俺も、本命は別にいるって事になってた。
俺の本命は、Aだったけれど。
Aには本命がいて、それが悔しかったから。
俺は、東京駅で、電池が切れるまで喋ってた。
もう、Aと喋ってるのが楽しくてしょうがなかった。
でも、俺は翌朝、岐阜に行った。
俺は、その2万円を、Aの為に使う事だって出来た筈だ。
何でだろう。別に、そこまでしてYに会いたかった訳じゃない。
そう、俺はAに見放されるのが恐かったんだ。
そんな、長い夏の一日だった。
今夜は、久しぶりに夜更かしをした。
煙草を吸ってから、寝るとしよう。
おやすみなさい。
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