ベトナム幻想/道草次郎
 
三角形の底辺は
アオザイのくびれよりも
ずっとかなしい
ユーラシア大陸の階段を下ると
翡翠の渓谷がある

スパンコールの鱗を
女たちは
その鎖骨にきざみ
孤独など贅沢よとばかりに
洗濯場の背中が
窓を
たしなめる

廊下にうずくまる
浅黒い子どもが
全詩集に
お茶をこぼしてしまう
すると
それを見たもっと幼い子が
けたたましく嗤う

錐揉み状の
フランス訛りで
逆さにされた鶏は
前触れなく首を
ちょん切られる

ジャンパーを羽織り
ドライアイで死にそうな海に
ベトコンの息子は
今日も漁に出る

詩なんて書く気
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