夢(ニ) 部分/沼谷香澄
 
い。父に話を戻そう。不可能な彼が景清を謡いおり暗い座敷の灯り背にして。
不可能な彼、里山に走り入り遠き深山の主になりたり。
不可能な彼の好みし箴言を集めるいずれ世に問うために。
不可能な彼の蔵書を売りに出すために土蔵に足踏み入れぬ。
父は何をしたかったのか、と問うことに意味はあるか?現在の答えはノー。断続的に訪れる病気と、アレルギーと、手術と、事故と、境遇を経てなお永らえているだけでも驚異的である。
しかし。昔々の、暗い蛍光灯の八畳間に「おとうさんのひきだし」のあった時代に、同じ問いを問うたらば、また違ったものが得られたかもしれない。
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   グループ"個人誌「Tongue」収録作"
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