アップルパイの2乗/るるりら
π(パイ)
二畳ほどもある焼き釜は
林檎とシナモンの焼ける
例えようのない良い薫りです
どれほどの林檎が燃え盛る炎に
くべられたか その林檎の数には限りがありません
讃えようもない良い匂いが
いつも窯の前で しはじめるのでした
人はほんとうに悲しいことがあるとき
上手に泣けるとは限りません
店員兼アップルパイ職人だった私は
お客様に 嘘のない笑顔をすると評判でした
けれど
大切な人を失った あの頃
気をもふれそうな私にかけられた
「嘘のない笑顔」という言葉
蜜の色に あの言葉を焼いてくれたのも パイを焼く大釜でした
窯の前に居ないときの私には
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