詩集『十夜録』全篇/春日線香
斎(とき)のあとで
土間に行く
足の裏に冷えた空気
石を渡ってゆくと
人が追いかけてくる
首を絞めようとするので
猫をけしかける
ぺたぺたと渡ってゆく
水をこぼさないように
名前を呼ばれないように
縁を出る
庭は荒れている
井戸も枯れていて
水をこぼしてしまった
このときに気づけばよかった
辻に葬列があり
夕暮れにちらほら灯りが立つ
誰を呼べばいいのか
あやめもわかぬ暗闇で
死者の白布がぼうっと光る
冷たい息を吐きながら
おまえはいつもそうなんだと
そこで一生後悔する
奥座敷
めしを湯飲みに詰めて
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