詩集『十夜録』全篇/春日線香
 
めていると
襖のむこうから男が来て
大勢待っているんだから と
できたはじから持っていってしまう
躍起になって熱いめしを
次々にしゃもじでよそいつけ
もう塩をふりかける暇すらない
こんな山奥に連れてこられて
一体いつまでこうしているのか
泣きたい気持ちになってくる
一体いつまでこうしているのか
すると突然襖がいっぱいに開いて
見れば暗い座敷に誰もいない
ただ百年も前からそこには
座布団が並んでいるだけだった





 五月闇

日が暮れてじっとしている
湯をわかして人を待っている
風呂桶の底にあめふらしが一匹いて
熱い湯に蠢いている
それどころ
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