詩集『十夜録』全篇/春日線香
庭でくるくると巻かれながら
湿った雲が頭をかすめていく
葉に浮き出た錆を流すように
水のようにゆらめいて
どこかへ去った響きがくりかえされる
巡る生滅のふちで
そのささやきを聞いて暮らす
再会
瀬を早み岩にせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ
百年前の水が流れて
あなたと呼ぶと
アナタトハダレノコトカシラ
はるかに響く
儚い交叉があり
骨ばかり巡らされた枝の下を
透きとおった踵で走り去る
白いかさねを着た花芯が
十字に別れを繰り返し
伝ってゆく道行きの身体に
手を伸ばした先には
海と呼ばれる
静かな湖をつくった
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