詩集『十夜録』全篇/春日線香
 
のせて眠る
石のおもしをのせた真夜中に
緑の腕がやってきた
緑の腕はがらがら声で
「どこへやった」と聞いてきた
その声がどうにも恐ろしかったので
戸口のほうを差して
山のむこうへ逃げたと答えた

呪文を唱えて雷を見送る

朝になると布団の中には
紫の腕が残されていた
もう冷たくなっていて
仕方がないので
庭木の根元に埋めてやった
石のおもしを置いてやった

ずっと昔ここで
そんなことがあった





 笹舟

流しにゆくのですか と聞かれ
流しにゆくのです と
暗がりに火を灯しながら
おそるおそる坂を下ってくると
柳の下に店が出ていて
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