草原の記/平瀬たかのり
 
 いつかむかし
 草原のくにの村に
 ふたりの若者がいた
 ふたりはともだちで
 いつも馬に乗っていた

 信じていた
 俺の駆る
 雄々しい鹿毛こそ
 僕の駆る
 凛々しい栗毛こそ
 いっとう速く走るのだと
 だけどふたりが
 駆けくらべをすることはなかった
 いつまでもともだちでいたかったから

 村はずれには羊飼いの一家
 親思いの末娘は
 働き者で器量よし
 村の若者たちはこぞって
 彼女のもとへ馬を駆って
 だけど娘が愛撫したのは 
 鹿毛の逞しい首筋
 栗毛の美しい流星
 ふたりだけにほほ笑んで
 
 帰り道、鞍の上
 口をきかなか
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