ひなげし/はるな
 
ゆるやかな住宅地、カーブに沿って咲いているひなげしの頭をひとつずつ摘みながら目の前を通り過ぎる乳母車を押した女に俺は尋ねる「俺は誰だ」ひなげしまみれの女は重たいまぶたをぴくぴくさせながら言う「知らない」。乳母車には腐った林檎が四つ、呪文のように鎮座している俺はそのうちの右から二番めを地面に打ち付ける。女は行ってしまう。
駅前の雑踏、両肩に一つずつ、首から一つ、計三つのギターを提げた若い男に俺は尋ねる「俺は誰だ」男はシガレットケースから吸いかけの煙草を取り出して火をつける「じゃあ俺は誰だ」。俺はさっきの女の真似はしたくないと思って「お前は糞まみれの犬だ」と教えてやる、男は満足そうに煙草を親指の先で
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