秘密荘厳大学文学部/済谷川蛍
ラートの初めの描写はこのようなものだ。
ハンス・ギーベンラートは疑いもなく優秀なる子供だった。この子が他の子供たちとまじって走り廻っていたとき、どんなに上品で人目を惹いていたかを見れば、それで十分だろう。シュワルツワルトの小さい町はかつてこんな容姿を育て上げはしなかった。この土地からは、広く見通しがきき、また広く活動ができるような人物は一人として出ていないのだ。その子の真剣な眼つきや、聡明な額(ひたい)や、上品な物腰が、どこに由来するものか、誰にもわからない。思うに、母からのものであろうか。母は亡くなって数年にもなるが、その存命中、絶えず病身で苦しんでいたという以外には、一つとして取り立て
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