秘密荘厳大学文学部/済谷川蛍
 
たが、私も含めて誰も読んだことがなかった。前列の勉強熱心なおばさんが「『檸檬』じゃないですか?」と言っていたが、それは梶井基次郎だろと思った。その日アパートに帰って青空文庫で読んでみたが、それほどでもないんじゃないかと思った。前園教授はヘッセも大好きでそこは自分と共通するのだが、やはり読んだ時期やそのときの状況などによって評価は異なるものらしい。
 私は外を眺めている森野くんに言った。
 「文学は面白いか面白くないかだよ」
 「えっそうなんですか」
 「うん」
 彼はヘッセの『車輪の下』の表紙を眺めた。
 「それに文学作品を読むにも段階っていうか、順番があると思う」
 「やっぱりいき
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