秘密荘厳大学文学部/済谷川蛍
 
他にもたくさん女の子たちが座っていてちらちら私のほうを見た。私は油の切れたロボットのような動きでトレイを返しに行った。
 
 大学図書館で―――。

 栂尾さんはレポートを書いていた。『車輪の下』の文庫が見えたが、やはり私が持っている翻訳のものとは違うようだった。おそらく一番オーソドックスな高橋健二訳だろう。
 私は自分から声をかけず、栂尾さんの机のそばに近づいた。
 気配に気づいた彼女が驚いた感じで振り返った。
 「あ、すみません。図書館まで来てもらって」
 「いや、いいんです」
 「秋山さん次授業ありますか?」
 サンスクリット語初級の授業があった。
 「いや、ないです」
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