尾崎喜八「山の絵本」を読む/渡邉建志
 
てこれは山登りのエッセイの本だ。でも詩人の言葉で書かれている。時にリズムが心地よい。

 君の土地、それは本当に美しい。その美の所以を、その秘密を研究し看破するためにはもっと長い滞在が必要とされ、はるかに深い専門的な造詣と高尚な叡智とが要求されるだろう。
 今日の詩人は、その善き野心にもかかわらずその詩的汎神論的地文学への夢想にもかかわらず、決してタレースたることもヘラクリートスたることもできず、また実に一個のゲーテたることさえできない。イオニアの風は古代希臘の春とともにその白い廃墟の中で死んだ。現代は分化の時代、限界固持の時代、一切の食出(はみだ)し不能の時代である
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