■批評祭参加作品■ Poor little Joan!または視点についての雑感/佐々宝砂
 
怪異があって、ほのめかしがあって、雰囲気だけは満点だ。ウォルター・デ・ラ・メアの「失踪」(東京創元社『恐怖の愉しみ』収録)という短編では、犯人(らしき人物)が通りすがりの語り手に自分の犯行を語る。語り手は犯罪の告白を聞きながら、それが犯罪の告白であると気づかない。語り手は、あーつまらん話を聞いてしまったと思いながら、凶悪犯の隣をそれと知らず通り過ぎてゆく。

つまり、語り手の言うことが信頼おけるとは限らない、のだ。ここんとこ心してほしい。語り手が嘘をつかず、観察眼に優れ、まわりで起きていることをきちんと認識でき、正気で、まともに叙述できる、と、誰が保証したか。誰も保証していない。「信頼できない
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   グループ"第2回批評祭参加作品"
   Point(10)