■批評祭参加作品■ Poor little Joan!または視点についての雑感/佐々宝砂
ない語り手」はレトリックの一つとして認められている。決して禁じ手ではない。
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最初に書いたように、『春にして君を離れ』はミステリではない。だがミステリの手法を用いて描かれている。物語の視点は、女…そう…現在三十八歳の私より少し年上の女にある。既婚で、優しい夫がいて、子どもたちも結婚して幸せに暮らしている。と彼女、ジョーンは語る。ジョーンは若く見える。金銭的にも精神的にも恵まれていて、非常に自己評価が高い。だが、しかし…という点にこの小説のおもしろさおそろしさがある。
ジョーンは、バグダードからイギリスに帰る途中で汽車に乗り損ねて、何日か足止めをくらう。万年筆のインクがなくな
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