霧(ミスト) (連作7)/光冨郁也
 
揺らぐ。波間にいるよう。
 目が覚める。トイレに立つ。汗をかいている。誰もいない暗い廊下を歩く。用を足し、水を流す。蛇口をひねり、水を出し、手を洗う。鏡で自分の顔を見て、部屋に戻る。眠る。目が覚めそうになる。わたしは何かを考えている。何かを話している。でもそれが何なのか、わからない、つかみきれない。そのまま、何かが流れていってしまう。
 波にもまれる。何かが消えていきそうになるが、今度は忘れない。女の手がわたしをつかむ。海の中、わたしは、握り返す。波がわたしを押し返す。手が離れてしまう。漂う。わたしは仰向けになる。空を見上げながら、流される。どの位たったのだろうか、頭と背に砂地の感触。わたしは再び、霧に包まれた。

(わたしは漂着したのだろうか、それともまだ漂流しているのだろうか)

   グループ"散文詩「バード連作集1・2・3」"
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