ミニ扇風機/光冨郁也
 
に戻る。車の中に入る。女の声は止む。フロントガラスから青い空、蒼い海を見渡す。

 箱から取り出し、ミニ扇風機に乾電池を入れ、電源を押す。風が来た。車の中で、フロントに扇風機を置き、文庫本に手を伸ばすと、本がこちら側に押し出される。強い風でもないのに。手に取り読む。エコーやナルシスの話を繰り返し読む。目が疲れると、シートをさらに倒し、眼鏡を外し、うたた寝をする。扇風機の遅く低い音がうなっている。

 まだミニ扇風機の電池は切れていないが、回転が弱くなっている。眼鏡をかけ、電源を止める。車から出て、自分のアパートに向かう。女の声が追いかけてくる。部屋に入る。ここでも女の声。乾電池を何本か持っ
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