ミニ扇風機/光冨郁也
 
持っていく。また空き地の車へと戻る。声の止んだ車の中で、扇風機の電池を入れ替え、電源を入れる。ミニ扇風機のプロペラが回る。青い栞が本から外れ舞う。

 フロントガラスを隔てて水平線を見渡す。西日が差し込む。まぶしい。助手席にひとの気配がある。上半身の輪郭が透けて見えた。横顔の表情はよく見えない。扇風機の風に、長い髪がそよぎ、光っている。女か。そばにいたから声がしなかったのか。車の中で、声はせずに扇風機の音がよりそっている。

   グループ"散文詩「バード連作集1・2・3」"
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