ミニ扇風機/光冨郁也
女の声が頭の中に響く。澄んだ高い声。日に日に声は大きくなるような気がする。声を聞く以外、わたしには何もできない。偏頭痛がしそうで頭を振る。空き地に捨てられた車がある。栞を座席の上で見つけ、車の中に入り込んだ。誰が落としたのか。栞を拾う。青いインクのイラスト、髪の長い女がぶれてプリントされている。いつも携えている本に栞を挟む。女の声が消えていた。女の声が届かない場所を見つけた。車から出ると、また女の声がする。
休日の昼下がり、曇った眼鏡をシャツで拭く。手の届かない空の下、車に向かう。白のセダン、前輪のタイヤが外されている。コンビニで買ってきた袋を持って、ドアを開ける。埃っぽいシートに座る。ジー
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