ミニ扇風機/光冨郁也
 
ジーパンの後ろポケットの文庫本を出し、助手席に放る。ページが宙でめくれる。神話のエコーのページが開きかかる。青いイラストの栞が外れ、本は閉じた。すれた表紙がたわむ。本を手に取り、栞をはさむ。助手席に本を置き直す。ダッシュボードを探る。車のキーはない。ドアを閉め切る。暑い。曇ったフロントガラスから空梅雨の空を眺める。サイドの窓を開ける。空は青かった。シートを少し倒す。コンビニの袋を開ける。カレーパンとチョコレートパン、それからパックのコーヒー牛乳。
 食事を終えると、暑いので外に出る。女の声が流れ込んでくる。近くのデパートに向かう。デパートで涼みたかった。途中、コンビニの前でゴミ箱に袋を捨てる。空
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