犬の名は全て一郎     (お暇な時にでも読んで下さい・・・)/ふるる
 
「このまま門をあけたら、みんな食べられてしまうわ。一寸待っていてね。おじい様、一郎達をお願いします。」
「よっしゃ」
昌造の声もする。
しばらく待たされた後、門がぎいと開いた。華子のくりっとした眼がのぞいた。
「こんにちは。」
「しばらく。」
ちょっと面食らって一郎は答えた。華子と会話をするのは、一昨年の正月以来だった。去年は伯父が急逝し、喪中のため年始の挨拶はなかったのだ。その間にすっかり女性らしくなった華子だった。葵の矢羽の着物をたすきがけにし、つややかな黒髪は後ろできりりとしばってある。一郎は咳ばらいして続けた。
「これを。」
「苺ね。ありがとう。どうぞ、お上り下さい。」

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  グループ"短いおはなし"
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