俳句の非ジョーシキ具体例5/佐々宝砂
 
思う。思いたい。日々のニュースのなかに、新聞のなかに、そしてもしかしたらあなたがいるその部屋の隅に、ひっそりと不気味に、戦争は立っている。今も、だ。今もきっと、立っている。「戦争が廊下の奥に立つてゐた」という句、私にはとても恐ろしい。恐ろしいが、この句を恐ろしいと感じる感性を失いたくないと願う。

「戦争が」とは違う意味で、冒頭の句も恐ろしい。現実の戦争を知らない、実際に死体を見た経験すら数回しかない、私はそんな人間だ。冒頭の句の「赤く青く黄いろく黒く」という単純きわまりない色彩表現の積み重ねは、そんな私にすら、「戦死」というものの恐ろしさを想像させ、戦慄させる。普通、色の表現をいくら重ねたっ
[次のページ]
   グループ"俳句の非ジョーシキ(トンデモ俳句入門)"
   Point(10)