(無題)/キキ
 
鏡のふちに
霜が降りている
唇のはしが腫れはじめ
痛みがやむころに
枝先から影が落ちる
おもむろに声をあげようとして
言葉にならなかった音の破片が
ガラスを震わせる
あなたが
どこから来たのか知っている
どこから生まれ出て
ここへたどり着いたのかを
けれど知ることはない
あなたが
どのようにここまでやってきて
どのようにわたしを愛するのか
鏡のなかで
役に立たない互いの
左手だけが
あらゆるものの名を記憶している
扉にて
寒暖の差に身震いし
その重いコートを脱ぐべきか
わからないでいる
声にならず
思わず咳き込んだ
その苦しい音が
あなたの名前であり
わたしの輪郭でもある

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