綿球ふたつ/佐々宝砂
状況はあまりに切実で
せっぱ詰まっていて
監督は時計を持って外で時間を計っている
ぐずぐずしていると怒られる
怒られるだけならいいけど殴られる
殴られるだけならまだましで
もしかしたら逆さ吊りで水をかけられる
だから綿球ふたつを突っ込んだ
まだどんなものも入ったことのない場所へ
ただ厄介なばかりの血が流れ出す場所へ
思い切って突っ込んだ
大急ぎで
便所を出て監督に一礼して
現場に戻って糸を繰る
母に教わった「おうま」は駄目だった
襦袢と腰巻をだいなしにしたし
何よりみっともないことになった
考えてみれば当たり前だ
二枚の和紙を重ねただけの「お
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