綿球ふたつ/佐々宝砂
 
「おうま」は
生糸女工の役には立たない

綿球を使うやり方は
先輩女工に聞いた
このほうがいい
「おうま」よりいい
ひどい違和感を感じはするけれど
だからといってどうということもなく
数時間便所に行かずに済むのだから


日勤が終わって夕飯を食べて
わずか許された入浴時間

それでも湯船に入るのは遠慮して
湯をあびると
半分朱に染まった綿球が流れてきた
自分のかと驚いて確かめたが
そうではなく

アレ恥ずかしいと
先輩女工が顔を赤らめるので

排水口の蓋を開けて綿球を流して
気にしないでねと目くばせして
脱衣所へ

新しい綿球ふたつを詰めこんで
大急ぎで身支度する
夜勤の時間が迫っている



「ルクセンブルクの薔薇」名義で発表。

   グループ"労働歌(ルクセンブルクの薔薇詩編)"
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