海色のミュール/佐野権太
 
夏ごとに
おしゃれになってゆくおまえが
自慢のミュールで前を行く

(なぁ、おまえが選んだっていう
(このお父さんの水着
(ちょっと
(トロピカル過ぎやしないか

いつか
波にやられて
泣いていたおまえが
浮き輪さえあれば
もうどこへでもいけると
涼しそうに
置き去りにする

離れちゃいけない
なんて呪文が
いつまでも効くとは
思ってやしないけど

見えた―――
と叫んで
ずぶずぶ沈む踵(かかと)を
もどかしく脱ぎ捨てて
駆けだす背中

傾いても
夏をまっすぐ反射した
海色のミュール

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