今夜月明かりに虹を見る ?/rabbitfighter
をパンで拭って、その一かけらを長い間咀嚼していた。ワインは飲まなかった。
僕たちにとって、夜はいつも長く穏やかに過ぎて行った。タンカーの中には映画や音楽やスポーツを楽しめる場所がいくつもあったけれど、そういった場所に顔を出すのは稀だった。僕も彼女も、お互いの沈黙を分け合うことが何よりも好きだった。それは幸福な場所だった。一人でいるとき、沈黙は僕を取り囲み圧迫するけど、二人の沈黙は僕たちの代わりに静かな会話を交わしていた。僕たちは会話を沈黙にまかせ、肌を寄せ合ってその長い夜を過ごした。明かりを落とせば、この部屋はいつだって夜になることができた。ちょうど、深海のように。
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