遡航/木屋 亞万
 
けらもない

かつて漁師だった男前も
今や援助と保護の対象でしかなく
やる事のない働き盛り
仕事のない一年は彼らには長過ぎた

そこで、男前は一人
船を一隻担ぎ上げて
山頂目指して遡航してゆく
何がある訳でもない
昔を思い出しながら登る

足が棒になり骨と肉の隙間に
静電気がびりびり流れる
身体に力が入らない
久しぶりの疲労感と高揚感

川の最上流に船を置き
彼は肉体労働に別れを告げ
和算を学ぶ決意をする
人生に流されず
遡航するように舵をとる
漁師らしい彼の決心

川が涸れても朽ちない森が
彼を激励するように
風に波打ち、寒蝉が鳴く
つくづく新たな旅立ちを思う

彼は数字の流れを遡航していく
解を釣り上げる計算の糸
目指すは最短、最高峰
唯一無二の華麗なる手段

彼の新たな漁場は
川にあらず海にあらず
時に濁り時に荒れ狂う
数字の渦の真っ只中
   グループ"象徴は雨"
   Point(1)