空本/木屋 亞万
水水しい空が強すぎて
太陽は白い影
図に乗った青空は
本を落としてゆく
知らぬ間に空は本棚
透き通った色をしていたのに
地面に落ちると褐色か
黒色の本ばかりになる
着地に失敗した本の
折れた頁を正してあげる
すると、背広を着た
会社員のような背筋で
ひとり立ち上がり
本の降る中、去ってゆく
空の水水しい背表紙は
今でも少しずつ剥がれている
空に残った本の背中が
どうも紫陽花のように見える
大きな切り絵が空一面に
広がったのかと思う人もいるかもしれない
それくらい美しい紫陽花
本を受け流せない傘を畳んで
落ちた本に手を差し延べて回る
私も文字の中にいるのだから
書の類には優しくしなければいけない
意識の片隅でいつも探している
一冊の背表紙があるのだけれど
その本は簡単には降ってこないだろうから
いつか空に咲く紫陽花の花びら
その一枚をそっと抜き取る
心積もりでいる
紙のように黄ばんだ白い手
傘を持ちつつ書を慰める
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