水記憶/木屋 亞万
 
雨粒が空から降ってくる時
水滴達が地に落ちてくる時
故郷とさよならを交わした後の
乾かされた空しさが
すべり落ちたハンカチのように
頭の上に降ってくる

十数える間にもう地面だった
故郷は届かぬ雲の上
鯨の潮吹きに紛れ込む頃に
植物の葉から蒸散する頃に
不可視の水は空を飛ぶ

雨上がりの虹は
懐郷病の子ども達
空にかかる七色の橋は
天の手前で折り返し
水平線の少し上を
たなびいていく
霧の中へ続く
かわいい子は旅をするのだ

水がふるさとを懐かしもうとする時
鮮明に浮かぶ故郷は無い
同じ場所に戻れる保障などない
日々が別れであり
別れを通して記憶
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