夕焼けヒッチハイク/木屋 亞万
 
と衝動の渦に私を呼びます
電車が核から末端へ働く群れを解きほぐし
さらさらの血液のように人々の流れ去る改札で
旦那は来ません


旦那は死んでしまった、という妄想をします
可愛そうで魅力的な私を一日の終わりに残して
傘をにぎりしめます
私も芝居に酔っているのです
憂鬱な黒い雲を眺めようと、階段を降ります


シゲキがタリナイ
まだ私は場違いな役者のようで
今にも舞台から追い出されそうです
雨が降ってきました、狂気の雨、強襲の、郷愁
私の魂は身体から染み出して、風待ち、ヒッチハイク、暗転


風を乗り継いで雨の宿り木へ
掴みどころのない黒い塊を突き抜け
夕暮れです、夕焼けです、黒雲の上に白雲
偏西風に逆らって鮭のように上流を目指します
イクラみたいな命の塊、夕日です、優しい赤です
私にだけ夕暮れです


筋書き通りに黒い傘を広げます
夜が来ます、日が沈みます、傘の骨が砕けて風に散ります
雀の涙ほどの星です

旦那が帰ってきました、今日も汗くさいです
田んぼで虫が鳴いています、雨は止んでいます



   グループ"象徴は雨"
   Point(3)