連作「歌う川」より その2/岡部淳太郎
く目的地に着けるように手助けをしてやる。
川――それが流れることに、人は意味を求めてはならない。それがひとつの流れとしてそこに在ることが重要なのであり、意味を求めれば、世界はたちまちにして均衡を失い、やがて崩れてしまうであろう。その流れは法則にのっとって流れているだけなのだが、物理学は哲学や宗教に似ているということを、人は心に銘記しておくべきである。
川――それはひとつの歌であり、流れつづけることで旋律を奏でる、楽器と演奏者とが一体になったひとつの体系である。魚はその旋律の中で歓喜を覚え、水鳥はともに歌い始める。そして人はただ聴き惚れるのみである。
川――それでもそれはただの水分の絶えざる移動であり、その眺めは、昨日も明日も変らずにいることが望ましい。
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祈る人はこの書物を一晩で読破した。いまにも朽ち果てそうな埃臭い廃屋の中、蝋燭の頼りない灯りで読むそれは、彼にいくらかの感銘を与えた。だが、彼の人生を根底から覆すほどではなかったし、隕石は彼にとってまだ、あまりにも遠かった。
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