連作「歌う川」より その4/岡部淳太郎
 
ったからだ
彼は自らの声に耳をすます
街頭の 雑踏の中にあっても
ひたすら自らの声に耳をすましつづける
そしてみんなが気づけば
あっ
消えちゃった
あの人 居なくなっちゃった
そう
旅はいつの間にか始まっていて
そして旅はつづいている
みんなも始めのうちは
消えてしまった人のことを気にして
捜索願いかなんか出したりして
あの人どこに行ったんだろう
これって蒸発っていうのかな
なんて思ったりもするのだけれど
じきに忘れてしまう
みんなが忘れた時
旅はようやく本格的なものになって
そして旅はつづいてゆく
そしてそしてやがてみんなが
彼のことを記憶の片隅にさえ
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