故郷の駅/fukuonara
故郷の駅
雨が降り出した
電車を降りた客たちは 空を見つめ
駆け出す人 傘をひろげる人
迎えを待つ人など 秋の夕暮れだった
五〇年昔の阪急神戸西灘駅
少年は改札口で母を待っていた
次の電車 新しい乗客が迎えの者と合流し
古い木造の駅を後にする
母親の出迎えで 楽しそうに帰る子供の姿
木造の駅舎にぼんやり灯りがともる
雨はやまず 母はまだ来ない
近くの家から魚を焼くような
夕飯の匂い
次の電車もその次も
雨はやまず 母は来ない
少年は途方にくれた
雨がやんだ
仕方なく とぼとぼと傘を二本持って
駅を後にした
少年は迎えを待っていたのではない
働き
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