睫毛蝶々/蒸発王
毛は
蝶々になるのですよ
目を細め
静かに息を吐いた
化粧をする年になった頃
私は初めて化粧箱の前で泣いた
声は無く
ただ涙だけが
目蓋を彩るアイシャドウと
縁取りの黒いラインを溶かし
何枚かの睫毛と共に
虹色に光って
鏡に落ちていった
揺れる視界
真っ赤な目で鏡を見れば
そこに
一匹の蝶々が映っていた
薄桃
橙
水色
蕩ける上羽
黄金
白金
若草
眩しいばかりの下羽
虹にゆらめき
羽は全て
黒く縁取られていた
蝶は
胡桃ほどのシジミチョウで
其の小さな羽を羽ばたかせば
薄い紅と涙の薫
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