睫毛蝶々/蒸発王
の薫りが鼻をついた
蝶は鏡の中に羽を広げ
何時頃か
涙が止まったと思ったら
消えてしまった
父にその話をしたら
祖父が死んだ夜
父が母の寝室の前を通った時
何処からとも無く
美しい大きなアゲハ蝶が飛んできたという
アゲハ蝶の大きさを
祖母が迎え討った
悲しみの大きさを
涙の数を思うにつけ
思わず睫毛を伏せてしまうけども
流れて産まれる
睫毛の蝶々の美しさに
少しだけ
ほんの少しだけ
羨ましく思ってしまった
それでも
女の人が
涙ごとに流す睫毛(まつげ)は
蝶々になるのですよ
『睫毛蝶々』
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