「脳梗塞」/広川 孝治
 

仕事の合間をぬっては
見舞いに来る長男
最近
仕事の愚痴をこぼすようになった
「母さん、僕はどうしたらいい?」
最後に決まって尋ねるお前に
わたしは言葉もなく
ただじっと見つめるしかできない
するとお前は
「そうだね、がんばるしかないよね」
揺るがぬ瞳になって答えるのだ

毎日8回の体位変換
そのうちの6回をしてくれる末の娘
お前は体が弱かったはずなのに
最近いきいきしている
「お母さんの世話をするのがハリになってるのよ」
そう言ってくれる

長女も次男も
わたしを抱きしめ
「お母さんが生きているから
 自分たちは笑えるんだ」
そう言ってくれる

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