流舞結晶 〜冬のクジラとさいかい〜/こしごえ
 
クジラが吼(ほ)えている
ふるえる水泡で
ちいさなまなこが
酸素欠乏して弾けてしまった

相変らず眼は わたしで
その視線と視線があうことは
滅多になくって
合せ鏡をしたときくらいかしら
あなたはどこにいるの

新宿の
落書(らくがき)に人知れず出くわしたのは
三年前の四時限目
「失うってどういうこと)っ
てきいたら
手をふりながら、ぷふぃ

失笑を買った少女は
がっかりはしたけれど
目薬をさしてそのまま
花園で空を見あげた
無いものねだりは致しません」

余計な空白もなく
涙していいのだ
わたしはそこにいる
透けた風の輝きに

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