子規の句 猫と犬/A-29
 
なので猫が先になったが、こちらは犬の句。野良犬だろう。音を取り立てて聴覚に訴えたという点は前句と同じ趣向。が、こちらは音の出どころを戸外に配し、その視認性を完全に封じるという徹底性が貫かれている。見ぬ写生。そう言っていいとすれば、写生が必ずしも視覚によるものでないことが理解できる。
 ところで、子規は『犬』(明治三十三年発表。『日本の名随筆76 犬』作品社)という一文のなかで、自分の前世はある業の深い犬であり、大病にとことん打ち毀されてゆく現世のこのありさまはその犬の宿業によるものではないかと思うと記している。それは例によって悲惨な話しだがつい笑ってしまう子規的ユーモアを含む一文だ。
 ひょっ
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