天体に関する話/朽木 裕
 
半規管」


「三半規管が燃えていますよ」

降車駅が近付き、腰を浮かせた私に
隣りの男がこう云った。

私はアタッシュケースを大事に抱えて
男からすぐさま離れる。

混迷している病人のようだ。

誰が?私が?彼が?

駅の階段を上り詰めると
三日月と誤認される月齢の若い月が私を出迎える。
…筈であったがそこには何もない。

ガタガタと暴れるアタッシュケース。
左耳が炎を吹いた。



Act:04「契約書」


酔った勢いで契約書にサインをしてしまい、
夕方と夜の境い目で男は不覚を嘆いている。

「果たして何の証書であったか…」


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